なぜ中国のウイグル人弾圧にイスラム諸国は沈黙するのか?
- イスラム諸国は、中国のウイグル人弾圧に対して沈黙を続けている。ウイグル人は中国西部に住むイスラム教徒の少数民族。
- 専門家と人権活動家はその理由について、イスラム諸国は中国からの経済的な報復を恐れていると述べた。
- また多くのアラブ諸国も人権問題に関しては悪しき実績を持ち、自国の問題に注目が集まることを避けているとの指摘も多い。
- トルコは過去に中国を批判した ── 中国はそれを忘れていない。
イスラム教徒が大部分を占める少数民族ウイグル人への中国政府の弾圧に対し、この数カ月、国際社会からの批判が高まっている。
国連は8月、中国が同国西部の新疆ウイグル自治区に設けた収容キャンプに100万人ものウイグル人を送ったという報道に「深い憂慮の念」を表明。4月にはアメリカ国務省は、各国の人権状況に関する報告書において、「姿を消した」、あるいは突然身柄を拘束されたウイグル人に言及した。
一方、イスラム諸国は完全に沈黙している。
過去1年間だけでも人権活動家たちは、中国当局がウイグル人の携帯電話の使用状況を追跡し、ひげや民族衣装を切るよう強制した事実を確認している。
また、国外に逃れたウイグル人に対して、中国当局は個人情報を渡すよう要求し、提供を拒否した場合は、国内に残った家族を脅迫したとの報告もある。
中国当局は収容所の存在を否定した。だが、政府が過激派と見なした人向けの「再教育」プログラムの存在を認めた。Business Insiderは中国政府に接触し、さらなるコメントを求めている。
イスラム諸国は過去に人権問題に声を上げたことがないわけではない。2017年、ミャンマー軍がロヒンギャを弾圧した際には、ヨルダンやイランの市民はロヒンギャとの連帯を示す抗議デモを何度も行った。
サウジアラビアの国連代表団もツイッターで批判した。
「イスラム世界の総意」を掲げる国際組織、イスラム協力機構(Organisation of Islamic Cooperation:OCI)も、5月にロヒンギャ危機に対して「適正な調査」を実施する意向を5月に表明した。
ではなぜ、中国のウイグル人弾圧に対して、イスラム諸国は抗議の声をあげないのだろうか?
巨額な資金援助
多くのイスラム諸国がこの問題に抗議しないのは、中国との経済的関係を脅かしたくないからと専門家は述べた。
中央アジアから中東にかけての地域では、さまざまな国が中国の「一帯一路」構想に参画している。一帯一路構想は2013年に提唱された巨大プロジェクトで、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、オセアニアの80近くの国々を鉄道、海上交通路、他のインフラ・プロジェクトで結びつけようというもの。
これらのインフラ事業の多くで中国は、信用格付けの低い国々に対して巨額の貸付を行っている。パキスタンをはじめ、すでに返済が難しい状況に陥っている国もある。
新疆ウイグル自治区での弾圧に対してイスラム諸国が批判の声をあげない背景には、中国とのこうした経済的なパートナーシップの存在があるだろう。
シドニー工科大学で中国政治を研究するシモーネ・ヴァン・ニーウェンハウゼン氏は、「ほとんどの国と同じように、イスラム諸国の多くでも中国との経済的な関係がますます強まっている」とBusiness Insiderに語った。
「新疆ウイグル自治区の状況を批判すれば、中国との経済的な関係を損なう恐れがあるという考え方が広まっている。したがって、批判することに関心を持たない」
オーストラリア在住の人権活動家で、Uyghur Bulletin networkを運営するアリップ・エルキン(Alip Erkin)氏は一帯一路構想を障害物と指摘した。
「一帯一路構想を通した巨額の貿易と投資機会、そして中国からの債務負担によって、イスラム諸国は沈黙を守るのみならず、中国のウイグル人弾圧に積極的に加担すらしている」
例えば、一帯一路構想のパートナー国であるエジプトは、中国のウイグル人弾圧を助長するような行動を取った。
2017年夏、エジプトは理由を明らかにしないまま、ウイグル人留学生を相次いで拘束、弁護士や家族との面会も許さなかったと国際的な人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは伝えた。
エジプト政府は少なくとも12人の中国籍ウイグル人を中国に送還したとニューヨーク・タイムズも同時期に報じた。
世界ウイグル会議(World Uyghur Congress)のプログラム・マネージャー、ピーター・アーウィン(Peter Irwin)氏はBusiness Insiderに以下のように語った。
「イスラム諸国はウイグル人を支援し、中国を批判するだろうというある種の期待はあった。しかし、そうした動きはない。中国が一帯一路構想のもとで示している経済的な野心を考えると、同構想がどれほどの成功を収めるか否かにかかわらず、今後も批判は起きないと考えられる」
中国のウイグル人弾圧にアラブ諸国が怒らない理由
ウイグル人弾圧に対してイスラム諸国が中国に抗議しない理由を、中国への経済的依存のみに求めるのは単純過ぎるだろう。
シドニー工科大学のヴァン・ニーウェンハウゼン氏は、イスラム諸国の多くは人権問題について悪しき実績を抱えており、個人の権利よりも社会の安定を優先している。そして、これは中国とよく似ていると語った。
中国は新疆ウイグル自治区での弾圧について「平和を守り、テロを防ぐため」と正当化した。ウイグル人武装勢力は、2009年から2014年にかけて、死者を出した新疆ウイグル自治区での暴動や中国各地でのテロ攻撃を主導したとして糾弾された。
また、多くのアラブ諸国は人権よりも社会の安定を優先させることについて「中国と同様の理解を示している」とヴァン・ニーウェンハウゼン氏は指摘した。
「中東諸国の多くは、自らも人権問題について悪しき実績を抱えている。これには宗教的少数派への対応も含まれている。多くの国が人権に対しては中国と同様の認識を持っている。つまり、社会の安定は個人の権利に勝るという考え方だ」
「こうした考え方は、中国政府が再教育キャンプや他の抑圧的な政策について、その存在を正当化する際に拠り所にしているもの」
Uyghur Bulletin networkのエルキン氏も、ペルシャ湾岸諸国の多くは中国を批判する政治姿勢を取る余裕はあるが、これらの国々は「その大半が極めて独裁的な政治体制をとっており、自国への干渉を避けるために、他国の国内問題には干渉しない」と述べた。
「イスラム諸国がウイグル人に対する恐ろしい弾圧、特に東トルキスタンで行われている文化浄化について沈黙していることは苛立たしいことだが、意外なことではない」(東トルキスタンは、ウイグル人が使う新疆ウイグル自治区の名称)。
エルキン氏はさらに続けた。
「イスラム教徒の連帯という理念が、イスラム諸国が国際政治の場で駆使する外交政策の道具として都合よく使われていることは苛立たしい。連帯という真のメッセージが失われている」
Business Insiderはイスラム協力機構にコメントを求めたが、返答はない。
中国を批判したトルコに何が起きたか
イスラム国であるトルコは、過去に中国のウイグル人弾圧を批判した ── 中国はそれを決して忘れない。
2009年、当時のレジェプ・タイップ・エルドアン首相(現在は大統領)は、新疆ウイグル自治区での弾圧を「ある種の大量虐殺」と表現した。さらに「これだけの事件に対して、中国首脳が傍観者の立場を取り続けていることは理解に苦しむ」と述べた。
この発言の直後、中国国営の英字新聞チャイナデイリーは「事実を捻じ曲げるな」という見出しで、エルドアン氏に発言の撤回を迫る社説を掲載した。
さらにトルコは2015年、中国から逃れたウイグル人難民に避難所を提供、これに対してチャイナデイリーは「両国のつながりに悪影響を及ぼし、協力が頓挫する恐れがある」と再び警告した。
エルドアン氏は最近、この問題に対して発言していないが、中国国営メディアによるトルコへの警告は続いている。
トルコは8月に入って、深刻な経済危機に直面した。そんな中、中国国営の英字紙グローバルタイムズは、中国による経済支援を提案しつつも、もう2度と「新疆ウイグル自治区での民族政策に対して無責任な発言」を行わないように警告する手厳しい社説を掲載した。